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【修復完了の報告会が行われました(メス・アイナク出土品保存修復プロジェクト)】

最終更新: 1月7日


 東京藝術大学社会連携センター(ユーラシア文化交流センター)では、アフガニスタンのメス・アイナク遺跡出土品保存修復事業を実施しています。当ブログではその修復過程を紹介しています。

 事業の概要は「ユーラシア文化交流センタープロジェクト」をご覧ください。また、修復作業は木島隆康教授(東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻)の研究室にて行われました。

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 2018年5月17日、修復を終えたメス・アイナク出土の文化財が、アフガニスタンに向けて出発しました。これにさきがけ、4月27日に関係者に向けた報告会が行われました。

【修復について】

修復について解説する木島隆康先生

 木島先生は油絵の修復を専門としています。その木島先生が、アフガニスタンの文化財を修復することになったきっかけは10年前にさかのぼります。

 当時、東京芸術大学の学長だった平山郁夫先生が、アフガニスタンからの流出文化財を買い集め、修復してアフガニスタンに返すというプロジェクトを立ち上げました。

 このとき、修復部門を担当したのが木島先生でした。

 修復にあたって、参考になる先行事例がみつからず、自分たちで考えて作り上げていくしかないという覚悟でのぞんだそうです。

 そしてこのたび、再度、アフガニスタンの文化財の修復をてがけていただくことなりました。今回、特に難しかったのは、「前回と同じケースではないということでした」と木島先生は語ります。

 メス・アイナク遺跡出土の文化財は、発掘現場から緊急避難的に運び出され、応急的処置をしたものでした。「修復はなかなか難しそうだというのが第一印象でした」と、木島先生。

 特に壁画の表面には、保護のためにガーゼがはられ、大量の合成樹脂で塗り固められていました。これらをはがすにはかなり強い溶剤が必要ですが、その一方で、1000年以上も土に埋もれていた壁画の彩色層は非常に弱く、無理にはがせば絵具もとれてしまいます。

 そこで、少しずつ丁寧に樹脂を溶剤でゆるめていくことになりました。表面のガーゼをとりはずすと、さらにその下には和紙がはられており、これも慎重にピンセットでとりはずしていきます。

 しかし、そのままでは、もろくなった絵具層が浮いてきてしまいます。そこで、再度、合成樹脂を注射器で注入して固めるという作業を繰り返し、画面の処置を行いました。

 これらの作業にはおよそ2か月かかったそうです。

ガーゼや和紙をはがす作業の解説パネル

はがした和紙(左)とガーゼ(右)。これらも後世のために保管します。今後、技術がより発達すれば、今はわからないことがわかったり、できないことが可能になったりするかもしれません。

 また、ガーゼと和紙をはがしてみると、以前の修理箇所が、全体的にたくさんあることもわかりました。詰めた充填剤がはがれているところもあり、いったん、充填剤をとりのぞき、詰めなおすという作業が行われました。

 「このとき重要なのは、修復の可逆性です」と、木島先生は話します。

 修復家には、修復で使用する材料は、あとで簡単にとりのぞくことができるものを選択しなければならないという義務があるそうです。このため、土という素材にあった充填剤にはどのような接着剤が適切か、何度も繰り返し試しました。

 さらに、最終的にどこまで手をいれて、修復するかということも課題となりました。

 手を入れすぎれば、オリジナル性が損なわれます。

 今回は、表面が欠けているところには色を入れず、できるだけオリジナルの彩色層を残すようにしました。また、充填剤を入れたところも、自然な風合いになるよう色を調整し、表面をざらつかせて土のような質感を出すなどの工夫が行われました。

色調整用のサンプル

 最後に額装し、公開展示できるようにしました。

 実はこの壁画は研究室にやってきたとき、裏面をエポキシ樹脂という非常に可逆性のない素材で固めてあり、さらに細いアルミバーのようなもので補強されていました。

 これらはとりはずすことができないため、逆にそれを利用して、支持枠をアルミバーにネジを固定し、額装しました。

 支持枠に使用した板は、ロハセルという発泡材です。新幹線のヘッドにも使われているくらい丈夫で軽量な素材で、壁に吊り下げることもできるようになりました。

 木島先生は、「こうして完成してみると、思いのほかうまくいったのではないかと思います」と、笑顔で語ってくださいました。

額装された壁画

 次に、2点の塑像の修復も行いました。

 これらの塑像は、動かせば崩れてしまいそうなほど脆弱な状態だったため、全体をアクリル樹脂で強化し、亀裂部分には充填剤を詰めて形を整えるなどの処置をしました。

 顔の半分が崩れたようになってしまった塑像は、もとに戻すことが不可能なため、ずれたままでの対応となりました。

修復した2点の塑像。顔が崩れてしまった塑像(上)は、「太郎」というあだ名で、大切に修復されました。下は仏教説話に登場する魔衆の頭部と思われることから、修復スタッフに「マシュー」と呼ばれていました。

 いずれも、大きな補修は行わず、塑像を支える台をつくり、そのまま展示できるような状態にしました。

 実はこの台と塑像をどうやってくっつけるかという点で、苦労をしたそうです。

 可逆性のない白い接着剤を使用し、二度とはがれないような接着をすれば簡単ですが、やはり、そういうわけにはいきません。可逆性のある材料を用いて、何か問題があったときには台をとりはずせるような工夫をしなければなりません。

 そこで塑像の裏の土の部分に大量の合成樹脂を含浸させ、そこに、炭素繊維を三軸織した特殊なカーボンをはりつけて、土台に固定しました。このカーボンは、もともと衛星のアンテナの補強材に使われるものです。

 修復の現場では、さまざまな素材や道具が、専門家の創意工夫によって活用されています。

 このとき使用した接着剤も、非常に強い接着力をもちながら、溶剤で簡単にはがれるという特殊なもので、何度も接着力をテストしたそうです。

炭素繊維を三軸織した特殊なカーボン。

使用した接着剤は、接着面が小さくても持ち上げられるほど丈夫

今回の修復で使用されたさまざまな道具や素材。以前の修復で使用された充填剤をはがす作業には、超音波メス(下の図の青い機器)が使われました。力をいれて物理的には取ることができないものも、超音波メスで振動を与えると自然に削れて、とても便利だそうです。

 こうして、修復を終えた壁画と塑像は、丁寧に梱包され、アフガニスタンに向けて旅立ちました。

梱包作業中の壁画と塑像

【遺跡と修復した文化財について】

 また、東京藝術大学客員教授の前田耕作先生からは、改めてメス・アイナク遺跡と修復した文化財についての解説がありました。

解説する前田耕作先生

 今回、修復した文化財が出土したメス・アイナクというのは、現地の言葉で「銅の小さな泉」という意味だそうです。首都カブールから東南へ40㎞ほど、海抜2100mの少し高いところにあります。

メス・アイナク遺跡(撮影:ユネスコ・長岡)

 1963年の調査で、ここに立派な仏教遺跡があることは判明していました。しかし、アフガニスタンでは長く紛争が続き、全体的な調査はされていませんでした。

 それが一躍注目を集めたきっかけは、中国企業がこの地の銅の採掘権を購入し、遺跡が破壊されると報じられたことでした。

 メス・アイナクのはじまりは3世紀ごろと推測されます。中央アジアに仏教が成立するクシャーン朝時代のカニシカ王(2~3世紀頃)のコインも出土しています。裏面には弥勒菩薩が描かれていて、非常に面白い時代であったと前田先生は語ります。

 その後、メス・アイナクは8~9世紀まで、寺院が壊されたり、つくられたりして続き、今もそれらの遺物の多くがこの地に眠っています。

 このため、中国企業のニュースをきっかけに、文化財の緊急救出が行われました。しかし、遺跡は全部で6つあり、広大で、すべてを救い出すことはできません。

 今回、修復した壁画や塑像が出土したのは、6つの遺跡のうち、カライ・グルハミド遺跡というところです。

 高さ79cm、幅117cmの壁画の中央に描かれているのは坐仏です。その隣には供養者と思われる女性が立っており、全体的には供養図ではないかと前田先生は話します。ただ、残念ながら欠損部分が多く、図像からはあまり詳しいことがわかりません。

 一つ、特徴的な点は、供養者と思われる女性が、衣のようなものを首に赤い布のようなものを巻いていることだと、前田先生は指摘します。これは非常に珍しいそうです。

首に布を巻いている供養者(写真右の人物)

 塑像についても詳細はわかりませんが、前田先生は、顔の表情から、ドラマティックなシーンが描かれていたのではないかと推測します。

 実は、メス・アイナクに隣接したハッダ遺跡からは「降魔成道」という仏伝の1シーンを再現したものが出土しており、そこには、お釈迦様に悟りをひらかせまいとする魔衆たちが登場するそうです。

 今回、修復した塑像も、あるいはそのような場面のものであったかもしれないと想像が膨らみます。

 いずれにしても、今後の研究が待たれます。

 「今回の修復プロジェクトは、考古学や美術史の専門家たちにとっても、メス・アイナクの仏教表現の在り方を勉強していく機会になっています」と、前田先生は結びました。

#メスアイナク

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東京藝術大学社会連携センター

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